「値上げ」できない日本…牛タン店の苦悩

いま仙臺名物の牛タンに、異変が起きている。

牛タン専門店の貼り紙
「この度、牛タンの深刻な品不足により、仕入れ価格が3倍にも高騰する事態となりました…」

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今や牛タンは、新型コロナで精肉工場が閉鎖するなどの影響を受け、アメリカ産で2倍、オーストラリア産に至っては3倍まで仕入れ値が上がっているという。
そうなれば當然…

仙臺牛たん振興會 小野博康さん:
その上がった原料分を商品に転嫁しないといけないんですが、お客さんあっての商売なので、やっぱりギリギリのところで企業努力しながら…。
1円でも2円でも切り詰めることによって、少しでもお客さんへの値上げをしなくて済む?あるいは少なく値上げしてやっていけるという…

1,550円で提供してきた「炭火焼き定食」を、泣く泣く1,800円に値上げしたという。

また別の店でも…

(株)チソー食房取締役工場長 小梁川慎也さん:
本當に初めての経験ですね、ここまで仕入れ値が高騰するっていうのは…

2020年の3倍の値段で仕入れながら、わずか200円の値上げで乗り切ろうと必死。なぜそこまで無理をするのかといえば…

仙臺牛たん振興會 小野博康さん:
お客様の立場からすると、仕入れ値が上がって売値も倍になりましたってなったら、じゃあ牛タン食べなくていいよってなるじゃないですか

そう、少しでも値上げしてしまうと客が離れてしまいそうで恐ろしい。実は、日本中に蔓延するその恐怖感こそが、日本経済をがんじがらめにする真犯人だという。

牛タンの味を覚えた中國に”買い負け”の危懼

実はこの牛タン値上がりの裏には、中國の事情も関係している。かつては牛タンなど見向きもしなかった中國人が日本で味を覚え…今では専門店まで出來る人気ぶりなのだ。???

仙臺牛たん振興會 小野博康さん:
最近では、中國でも食べ始めました。人口が日本の10倍以上ですから、少しの方が食べ始めても、あっという間に持っていかれてしまうという…

中國でのお値段は、ひと皿 約1700円(98元)と、中國の外食にしては かなりお高いにもかかわらず…

記者:
高いと思いませんか?

中國人の客:
まあまあだと思いますよ。普通の給料をもらっている人なら、手を出せますしね

中國人の客:
この値段で、こんなに良い牛タンを食べられるなんて、気分は最高ですね!

と、すこぶるご満悅…なぜなら

中國人の客:                                     収入が毎年上がってますからね

そう、収入がどんどん上がっているからだ。

中國人の客:
毎年、月収にして1萬8000円~3萬6000円は上がっています

韓國に抜かれた日本の給料

確かにこの30年、世界中の賃金が右肩上がりを続ける中、日本の賃金は橫ばいを続け、ついには韓國にも抜かれてしまった。

一體なぜ、こんなことになったのか?

長年日本経済を分析してきた、実業家で元ゴールドマンサックスのアナリスト、デービッド?アトキンソン氏は…

実業家 デービッド?アトキンソン氏:
1つは、國がそのリーダーシップを発揮してない。口は出すけどお金を出さないということで、これでは誰も乗ってこないですよね

特に、政府が”新たな価値を生み出す産業”を主導してこなかったことが問題だというアトキンソン氏。
そしてもうひとつの問題は…

実業家 デービッド?アトキンソン氏:
最低賃金のところになりますけども、要するに日本人みたいによく教育されている?真面目に仕事をする、そういう國民なんですけど。最低賃金があんまりにも安すぎることによって、経営者としては、倫理感が強くて真面目に真面目に働く人たちを、あまりにも安い賃金で雇うことができる。そういうことをベースにしてですね、もう努力する必要がない?経営者としてそこに乗っかってるだけで工夫する必要はありません。ですから、動き出すインセンティブがないんです

そう、日本人があまりに従順すぎて、どんなに給料が安かろうが文句ひとつ言わないため、経営者はなんの努力もしなくなるという。

では、他國では本當にそれほど最低賃金が高いのか?
ニューヨークで、學生たちにアルバイトの時給を聞いてみると…

『調理のアルバイトをしていますが、時給は最低賃金の15ドルです』
『大學の広報を手伝っています。時給は15ドルです』
『MUJIという日本の會社で働いています。時給は15ドルですね』

軒並み15ドル、日本円にして約1,700円という答え。これは日本の都道府県で一番高い東京の最低賃金(1,041円)の、1.7倍となる計算。
こんなに高くて企業はやっていけるのか?

実業家 デービッド?アトキンソン氏:
これは経済學の基本中の基本なんですけども、給料が上がってくると(経営者は)イノベーションをするようになります。先進國の場合は人間に払わなきゃいけないコストが高いので、高くなればなるほど、その賃金を払うために機械化もしますし、ビッグデータも使いますし、いろんな工夫をしてやっていきます

先に賃金を上げてしまえば、経営者は否が応でも知恵を絞るのだという。

だが、そんなに都合良く行くモノなのか?
ワシントンDCを中心に13店舗を展開する「都市型ホームセンター」のCEOに話を聞くと…

フェデラル?ヒル?エース?ハードウエア ジーナ?シェーファーさん:
弊社の直近の賃上げは今年7月1日でした。14ドル50セントから、15ドル50セントになったと思います

そもそも、なぜ経営者が率先して賃上げをするのか?

フェデラル?ヒル?エース?ハードウエア ジーナ?シェーファーさん:
弊社は非常に小さな會社です。大手やネットショップに優秀な従業員を奪われたくなかったのです。ですから賃上げや値上げ、高すぎるのを気にすることは全くありませんでした

しかし、賃上げを可能にするため経営陣は、仕入れ値?保険料?家賃の支払いなど、すべての支出を見直したという。そうした企業の姿勢は客にも伝わっているようで…

『労働に見合った給料を払いたければ、値段も仕方ないわね』
『社員に十分な給料を払うためなら、多少の値上げも構わないんじゃないかな』

客もまた、真っ當な値上げを受け入れる心構えがあるのだという。

また別のレストランでは、全店舗で平均12ドルだった従業員の時給が、最低賃金の15ドル(約1,700円)以上に。その結果、主力商品であるバーガーは25セント(約28円)の値上げになってしまったが…

ヒップシティベジCEO ニコル?マーキーズさん:
実際多くのお客さんは、フェアな最低賃金を支給していると分かったら、“バーガー1個に追加で25セントを支払うことはかまわない。私たちのレストランでもっと頻繁に食べる”と言ってくれたんです

さらに、率先して賃上げを決めたアパレル企業のオーナーは…

レイガン マイク?ドレーパーさん:
余裕があったから賃上げをしたわけではなく、大変でも目標を設定して、もっと商品を売る努力をして目標を達成しようと考えたのです。値上げがある一定の範囲を越えなければ、大したことではありません。人件費が年間10萬ドル増えたとしても、それは経費のごく一部にすぎません

賃上げによるコストアップなど、わずかな値上げで十分に吸収できるという。

韓國の最低賃金引き上げは失敗か?

事実、ここ數年で日本の平均賃金を抜いてしまった韓國の最低賃金を見ると…
2018年に16.4%、2019年に10.9%と、最低賃金の引き上げを行った時點で、日本の労働生産性を超えている。
當初は失業者が急増したことから、日本のマスコミは“ほら見たことか”と失敗を伝えたが…

実業家 デービッド?アトキンソン氏:
殘念ながら、それはやはり日本のマスコミと日本の評論家の中身のなさを反映しているだけですね。あの時(韓國が最低賃金を引き上げた時)に、失業率はボンっと跳ねた。日本では絶対にするもんじゃないって。(マスコミも)いいこと言うじゃんって。
ただマスコミはそれしか見ないですから。その後どうなったかって、みんなもう無関心?思考停止っていいますか。あの2回目(賃上げを)やった後に、韓國の労働生産性は日本より初めて上にいったんです」

?確かに、それはデータが証明している。

そこで実際に、韓國の労働者に聞いてみると…

『はい。當然個人の月給が上がるわけですから、賛成のムードです』
『もちろん(賃金が)上がるのは正しいですよ。使えるお金が増えたので、消費は増えました』

実業家 デービッド?アトキンソン氏:
私だったら最低賃金を引き上げて、それで失業率が上がってなくて、賃金が日本人を上回ったというのは、これが失敗だって言うのであれば、日本に同じ失敗してもらいたいです

ただ、それで本當に日本はうまくいくのか?
実際にはわからないと指摘するのは、東京大學で労働経済學を研究する川口教授だ。

東京大學労働経済學 川口大司教授:
最低賃金を上げると労働のコストが上がりますから、機械化への動きっていうのが出てくるわけですよね。やっぱり最低賃金を上げて雇用が失われると何が起こるかって言うと、(會社に)殘った人は賃金が上がるから嬉しいと。
でもその一方で、職を失ってしまう人も出てくるわけですよ。やはりそこには生活がかかっている人々がいるわけで、その人たちを対象にして、楽観的な希望的観測に基づいて社會実験をするっていうのは、望ましい考え方ではないという風に思います

果たして、日本は最低賃金を上げるべきか否か。

いずれにせよ、日本は何かをドラスティックに変えない限り、経済成長の果実は手に出來ないと言うアトキンソン氏。

実業家 デービッド?アトキンソン氏:
日本全體で見れば、例えばニュース番組を見ると、グローバリズム嫌だとか、新自由主義ダメだとか、規制緩和は嫌ですということで、要するに全部、現狀維持、現狀維持なんですよね。現狀維持の延長線に何があるんですか?っていうとですね。それは“あなたの給料も現狀維持”ということですよ。その結果として給料上がらないことに対して文句を言っても自業自得なんです

(「Mr.サンデー」10月24日放送分より)